世界で活躍するリーダー列伝 第一回目:ゲスト 岡田兵吾氏

世界銀行の発表するビジネス環境ランキングにおいて、10年連続トップであり続けるシンガポール。東南アジアの中心に位置し、税制面での優遇措置や交通・通信インフラなどの環境面も整備されているこの地ではビジネス展開をする企業も増加の一途で、次世代のグローバルリーダーを続々と輩出されている地でもある。

今回のゲストもそんなグローバルリーダーの一人。マイクロソフト シンガポールにおいて、社会変革に取り組む岡田兵吾氏だ。彼のトレードマークであるリーゼントにサングラス。一見、強面で近づきがたい印象の彼だが、関西出身ということで、気さくなオープンマインドの持ち主であり、周囲への気遣いを常に忘れず、ホスピタリティに満ちたハートウォーミングな人物である。

現在、彼にとってのビジネス拠点はシンガポール。彼が一時的に来日するということで、今回は特別に貴重な時間をもらい、グローバルで活躍する秘訣を聴かせてもらうことになった。仕事で最大限の成果をあげながら、傾倒する歴史探索などにも熱心な岡田氏。今日は彼から次世代のグローバル人材に求められるノウハウをたっぷり聞き出すとしよう。

Profile

アクセンチュア(日本、米国)、デロイトコンサルティング(シンガポール)、マイクロソフト(シンガポール)のグローバル企業3社で20年間、業務・ITコンサルタントとしてシンガポール・日本・アメリカをベースに活躍。世界トップビジネススクールIEエグゼクティブMBA取得、同アルムナイ・シンガポール支部初代会長。同志社大学工学部卒業。

シンガポール移住13年目、永住権を保持し、近年はアジア全域の新事業開発、業務改善、組織改革に従事。現職マイクロソフトにおいては、CSR(社会事業)委員、組織・文化改革リードも兼任。人生目標『ソーシャル・チェンジ(社会変革)』を目指し、人材育成支援、貧困層ボランティア、NPO向け経営支援に従事。

シンガポールドラッカー学会理事。シンガポール和僑会元理事。ダイヤモンド・オンラインにて 『STAY GOLD! リーゼントマネジャー岡田兵吾の「シンガポール浪花節日記」』 連載中。

【2016年4月26日放送】シンガポール日本語ラジオ放送 FM96 3 SMILE WAVEスマイルウェイブ「Singapore Dream! 岡田兵吾さん」

いくつもの役割をバランスよく楽しみたい。ポリシーはワークライフバランス

グローバルで活躍するリーダーらをテーマにインタビューを行う本企画。
今回はシンガポールを拠点にご活躍されている岡田さんにお話しを伺います。
ご多忙な中、ご協力ありがとうございます!現在は一時的に来日されているとか?

こちらこそ、ありがとうございます!はい、日本にいるのは来週までの予定です。今週は東京にいますが、来週は福岡と大阪へ出張。その後は韓国へ向かうことになっています。日本国内、海外問わず様々な地域で仕事をしていますね。

シンガポールのみならず、世界各国を舞台にご活躍されているのですね!
ハードスケジュールをこなす秘訣はありますか?

岡田兵吾氏画像01どんなに仕事が繁忙でも、必ずプライベートも大切にすることです。歴史やパワースポットが好きなので、仕事の合間に名所を観光することも多いですね。実はここだけの話、来週の福岡出張の際に、大宰府へ立ち寄るのが個人的には楽しみで(笑)。私にとって人生の師は吉田松陰先生。去年も山口県へ出張する機会があったのですが、山口といえば松陰先生ゆかりの地、萩を訪れずには帰れません(笑)。出張帰りにバスで一人、萩へ行き、松陰神社に参拝してきました。

過密なスケジュールの中、趣味の時間も大切にされているのですね!

仕事の時間と同じくらい、プライベートの時間へも重きを置いています。私のポリシーは、ワークライフバランスを大切にすること。プライベートが充実してくると、仕事へも良い影響が多く生まれるものです。業務外で興味を持ったことがきっかけで、仕事だけでは得られない新しい気づきやアイディアが生まれることもありますし。もちろん仕事と生活を両立するためには、限られた時間の中で求められる成果を出す必要がありますし、何より周囲のメンバーの協力なしでは実現しないため、容易なことではないです。でもやっぱり私たちの人生は、仕事がすべてではないですよね。それぞれ、仕事以外にも様々な立場があります。私の場合であれば、マイクロソフトの岡田兵吾っていう顔があると同時に、家族がいるから妻の旦那でもあり、親でもあり、子でもあり。さらにもっと大きく捉えれば日本人、アジア人、世界市民という顔も持っているわけで。私はそれらの顔をバランスよく楽しみたいと思っています。仕事を頑張るから、家庭を犠牲にするのではなく、どちらもかけがえのないものですから。

育メンなんて普通!? 海外のワークライフバランス事情

岡田さんのポリシーである「ワークライフバランス」。
最近は日本でもよく耳にするようになりました。海外でも同様の情勢なのでしょうか?

岡田兵吾氏画像02その点については、やっぱり海外の方が進んでいる印象ですね。海外ではメンバー一人一人がそうした意識を持っていることはもちろん、実践できている人も多いし、実践しやすい環境も整っているような気がします。例えば、シンガポールで共に働くある同僚は普段、18時から21時までは会議を入れないよう調整し、周囲もそのルールを徹底しています。18時以降は子供の送り迎えや食事など、家族と一緒に過ごすための時間として大切にしている彼。このようにシンガポールでは女性だけでなく男性も育児を行う家庭をよく見かけます。今でこそ、日本でも男性が育休を取得することや、育児に協力的な男性を「育メン」と呼ぶようなことも増えてきましたが、海外では、もっと当然のことのように実践できている。

「Work anytime, anyplace. 時間や場所を問わずに誰もが成果を出せる。」マイクロソフトが掲げる言葉にもその精神が表れています。従業員それぞれが、自分自身の生活を大切にしながら、きちんと成果を出せる仕組みづくりを行っており、例えばSkypeでのミーティングや、クラウド上でドキュメントをシェアもそう。こうした試みである程度の時間や空間的な制約は解決されます。現在、ワークライフバランスの浸透へ取り組む企業が増えていますが、こうした具体的なアクションを起こしている企業は総じて、結果が伴っているように感じます。

なるほど。ワークライフバランスを掲げるだけでなく、具体的にアクションを起こしているかどうかは大きいですね。ちなみに、そうした海外での働き方の裏には、日本と海外で意識の違いがあるのでしょうか?

恐らく成果主義による影響が大きいかと思います。彼らは雇用契約を結ぶ際にも、自分自身が求められるミッションをクリアにすることを怠りません。時間になったら帰る、仕事とプライベートの線引きをきちんとできるというのは、それだけ成果にコミットしているということです。成果をきちんと出しているからこそ、周りの理解や協力が得られる。さらに言うと成果主義が根底にあるからこそ、海外では上司部下との関係も対等です。日本では封建制度の名残か、組織内に圧倒的なボスが存在していて、部下は上司のため、さらには会社のために身を粉にして働くことを美徳と考えがちな一面もあり、上司側も部下にそのような姿勢を期待することも少なくありません。

一方、欧米企業の場合は、上司は上司でありつつも、そこに上下関係があまりなく、フラット。まるで友人みたいにフランクに接していることも多いです。上下関係よりも、チーム一丸となって最大限のアウトプットを出せることを目指しています。もちろん海外でも上司に権限はあります。ただし、その権限を用いて部下をサポートすることがミッションだと捉えているのが海外。How can I help you? Any problem?と、上司が部下を気にかけながら、部下がより働きやすい環境でアウトプットを出しやすいよう、サポートしているのが特徴です。

求められるのはスピードと成果。
そして、いかなる状況でもフレキシブルに対応できる人材。

圧倒的な成果主義。だからこそ仕事と生活の線引きができる。
当然ながら、グローバルリーダーに最も求められるのは成果だと思います。
岡田さん自身は成果を出すために工夫されていることはありますか?

岡田兵吾氏画像03とにかくゴール、期限をシビアに設定することを心がけています。
全体のスケジュールと自分のスキルを照らして、作業にかける時間を見積もります。例えば11時までに資料を作るとか。もちろん時間に間に合わないこともありますよ。でもそうしたら、資料でまとめられなかったところは口頭で伝えようとか、何かしら工夫をします。よく言いますが、日本人は完璧を目指しがちなところがあります。私は、ビジネスの場合は8割、いや場合によっては6割でもいいと思っています。大切なのは目的を達成すること。A案が無理なら、異なる視点で落としどころとしてB案を決めるなど、創意工夫次第で解決できることも少なくありません。

必要以上に時間はかけない。限られた時間内で最大のアウトプットを出す。
成果とスピードがカギになりそうですね。

そう、海外ではそもそもビジネス上の”かっこいい”の定義がちがいますね。とにかく早く仕事をすることが”かっこいい”と見なされる。日本の場合は、スピードも大切だけど、もっとプロセスや態度なども含めて総合的に評価することも多いじゃないですか。結果が伴わなくとも、全身全霊をかけて頑張ったとか、いわゆる浪花節みたいな(笑)。こうした日本特有の考えも素晴らしいですが、ビジネスはスピードがものを言うことも少なくありません。スピードが求められるからこそ、海外ではタイムマネジメントへの意識、いわゆる時間への自律心が強い印象があります。よく日本人は会議の始まりの時間には厳しいけれど、終わりにはルーズだなんて揶揄されるじゃないですか(笑)。

会議の終わる時間にルーズ、確かにあるかもしれませんね(苦笑)
諸地域から人材が集まるシンガポール。上記のような考え方や感覚の違いは、ビジネスをする上でも多く発生しそうですね?

それはもちろんあります。マイクロソフトシンガポールの場合もおよそ60カ国の地域からメンバーが集まっているため、それぞれが異なるバックボーンや文化、価値観を持っています。それでも、各々が互いの個性を認め、尊重し、相手に常にオープンなマインドを持ち、自分と異なる意見に対してもアクティブリスニングができています。日本も最近、多くの企業で多様性(Diversity)を掲げるようになりましたが、ずっと前から海外では、こうした環境の中で周囲とフレキシブルに協調できる人材が評価されていますね。

Step out your comfort zone & Aim high!!
岡田氏から未来のグローバルリーダーへのメッセージ

これまでは岡田さんから見た、海外と日本では働き方やその根底にある意識のちがい、さらに海外で評価される人材像を伺いました。この記事をご覧になる読者の方の中には、これから世界を目指そうという方も多いかと思いますが、実際は足踏みしてしまうことも少なくないものです。
最後に岡田さんから、何か背中をポンっと押していただけるようなメッセージを頂けますでしょうか?

岡田兵吾氏画像04自分が興味のあるもの、挑戦したいと心から思うことを信念曲げずに挑戦してみることが大切だと思います。想いと行動は車の前輪と後輪のようなもので、どちらが欠けても車は走ることができません。両者が揃って、バランスよく回りだしてはじめて、車は前へ力強く進むことができるものです。

行動をすると、特に新しいことを始めるときには、決して楽なことばかりではありません。壁に直面し、もがき苦しむこともあるでしょう。それを乗り越えるために努力も必要です。でも、無駄な苦労なんてないのです。No pain No gain. 痛みがあるからこそ、苦しんだ分だけ人は成長し、また一歩前へ進むことができるのだと思います。私も若いころはもがいていた時期もありました。今でこそ海外で英語も当然のように口にしていますが、当時は日本語にすら自信が持てず、周りの目を気にしていた時期もありました。でも、やりたいことに対して一歩踏み出してみると、おのずと道筋が見えてくる瞬間があります。行動を起こせば、周りが認め始める瞬間があり。それが自分の自信へとつながり、また次の一歩を踏み出す原動力となります。

海外へ興味があるなら、まずは海外へ行ってみる、簡単なフレーズでも外国人と英語でしゃべってみる、面白いアイディアがあるならプレゼンしてみる、商品があるなら売ってみるとかね。とにかくはじめの一歩を踏み出すことですよ。人は誰しも慣れ親しんだ居心地の良い場所(comfort zone)から抜け出すことは怖いものです。でも、一歩外に出ると、すべてのストーリーが動き出し、その後のことは自分の成長や居場所に応じてついてきます。山登りだって同じ。最初に高尾山にチャレンジして、登りきったら山頂から美しい富士の山肌が見えて、次は富士山頂を目指してみたくなるもの。富士山も登頂できたら、海外の山へも挑戦したくなるかもしれない。

私たちにある時間は本当に短いです。せっかくなら限られた時間の中で、熱狂できることを同志と共にがむしゃらにやりたいじゃないですか!松陰先生らが当時、どんなに願っても訪れることができなかった海の向こうの地は、私達にとって、今やごく普通に生活やビジネスができる場所となりました。彼らがいつも持っていた高い志。それは移り行く歴史の中で決して色あせることのない普遍的なものだと思います。チャレンジは今この瞬間からできます。志高く、まずは一歩を踏み出してみて下さい!

Step out your comfort zone & Aim high!!
Stay Gold!!